ブランド構築には現場の声が不可欠:社員インタビューで露呈する本部と現場のズレ

企業のブランディングにおいて、社員の声を聞くことは単なる「良い話」ではありません。それは、ブランドの一貫性を保ち、採用から顧客対応まで、あらゆる場面での信頼を築くために不可欠な要素なのです。特に本部と現場が分かれている組織では、この声を聞かずにブランディングを進めることは非常に危険です。

なぜ現場の声が必要なのか

社員、従業員、アルバイト、パート、フリーランス、業務委託など、雇用形態に関わらず現場で働く人々の声を聞くことは、真のブランド構築において欠かせません。

小規模な企業で社長がプレイヤーとして現場に立っている場合は、社長主導でのブランディングも可能でしょう。しかし、本部と現場が分かれており、社長が現場から離れている場合は、必ず現場の声を汲み取る必要があります。

現場の声を聞かずにブランディングを進めると、社長が思い描くブランドと現場の人が感じているブランドに大きなズレが生じる可能性があります。これは単なる認識の違いではなく、企業の信頼性を根本から揺るがす問題となるのです。

社員インタビューで露呈するブランドのズレ

社員インタビューの原稿を社長が見た時に「なぜこんなことを話しているのか」「全然自分の思っている方向と違う」と感じるケースは少なくありません。このようなズレが発生すると、深刻な問題が生まれます。

矛盾するメッセージが生む混乱

社員インタビューの内容: 「私たちはお客様のために時間を割いて寄り添い、時間をかけて対応していきます」

代表挨拶の内容: 「論理的にAIやDXも活用しながら、できるだけ効率よく作業することを大事にしています」

このような矛盾するメッセージを受け取った顧客や求職者は、「この会社はどっちなのか?時間をかけてくれるのか、かけてくれないのか?」と混乱してしまいます。

採用ブランディングへの致命的な影響

特に採用の場面では、このズレが致命的な問題となります。求職者が先輩社員のインタビューで「お客様に寄り添う」という話を聞いて入社したのに、代表挨拶では「効率的に短時間で」という方針が語られていたら、新入社員は「お客様とどのように接すれば良いのか」迷ってしまいます。

この時点で採用ブランディングは完全に失敗しています。求職者が「この会社はこういう会社なんだ」という確信を持って入社できない状況では、ブランディングが機能していないと言わざるを得ません。

一貫性のあるブランドメッセージの重要性

ブランドメッセージが一貫している場合の効果を考えてみましょう。

社員インタビューでも代表挨拶でも: 「お客様に寄り添う。どんなに時間がかかってもお客様に寄り添います。今の時代、AIやDXが重視されていますが、当社はとにかくお客様に寄り添いたいのです」

このような一貫したメッセージであれば、求職者は「ここの会社は効率化やタイムパフォーマンスが重視される時代でも、とにかく向き合う会社なんだ。僕もそういうところで働きたい」と明確な意思を持って入社を決めることができます。

現場の人こそが顧客視点を知っている

企業のイメージを実際に作っているのは、顧客と接している現場の人々です。社長がどれだけ頭の中で「こう見られたい」「こういう会社に見られたい」と思っていても、お客様と接している現場の人が最もお客様視点での自社の見られ方を知っています。

現場の声を反映した発信内容の決定

ホームページや記事、社員インタビューにブランドを反映させる際は、社長だけの意見ではなく、顧客と接している現場の方の意見も聞くべきです。

  • 「うちはどういう発信をしていけば良いだろう?」
  • 「どういう言葉遣いをした方が良いだろう?」

このような議論を現場の人々と行うことで、より現実的で説得力のあるブランドメッセージが生まれます。

具体例:デザインと言葉選びへの影響

社長としてはホームページを「かっこいい言葉でクールに」見せたいと考えているかもしれません。しかし、現場の社員がお客様と寄り添うような対応をしているなら、「うちはそんなクールなイメージじゃなくて、もっと温かいイメージ。例えば色で言えばオレンジのような、柔らかい色のイメージなんじゃないですか」という意見が出るでしょう。

また、社長が「最先端の○○」といった表現を使いたくても、現場の人からは「うちってそんな感じでしたっけ?最先端どうこうじゃないですよね」という現実的な指摘が得られます。

記事やコンテンツへの反映

現場の声を聞くことで、発信する記事の内容も大きく変わります。

社長の考え方だけで記事を作成すると、「最先端の考え方」「最先端の技術」「最先端の○○」といった内容になりがちです。しかし、現場の人が知っているお客様からのイメージは「寄り添ってくれる」というところにあるなら、記事には以下のような内容を盛り込むべきです:

  • お客様への対応姿勢
  • 具体的な寄り添い方
  • 時間をかけることの価値

このように現場の声を反映することで、言葉や文章、記事にズレが発生することを防げます。

実践的なアプローチ:声の拾い方

社員の声を効果的に拾うことで、ブランドの一貫性を保ち、現実的なメッセージを発信することができます。ここでは具体的な方法について解説します。

多様な立場の人の意見を集める

社員の声を効果的に拾うために、以下のような質問を投げかけてみましょう:

  • 「うちってどういう会社だと思う?」
  • 「お客様からどういうところで評価されていると感じる?」
  • 「競合他社と比べて、うちの強みは何だと思う?」

社長や役員だけでなく、現場のさまざまな立場の人の声を聞くことが重要です。

異なる意見をまとめる方法

時には正反対の意見が出ることもあります。例えば、ある人は「寄り添い」を重視し、別の人は「効率化」を重視するかもしれません。そのような場合は、「寄り添いながらも効率化する」といった灰色の言語化を行えば良いのです。

重要なのは、こうしたプロセスを経て「ありたい姿」と「実際に見られている姿」をうまく合致させ、一度軸を作った上で記事やSNSなどの発信内容を考えることです。

組織運営においても重要な考え方

現場の声を聞くことは、単なるブランディング手法ではありません。それは組織運営においても非常に重要な考え方です。

ブランドの一貫性を保ち、顧客や求職者に明確なメッセージを伝えるためには:

  1. 現場の声を積極的に聞く
  2. 本部と現場の認識のズレを把握する
  3. 異なる意見を統合して軸を作る
  4. その軸に基づいて一貫した発信を行う

これらのステップを踏むことで、真に説得力のあるブランドが構築できます。従業員を抱えている経営者の方は、ぜひ現場の声に耳を傾け、ブランド構築に活かしてください。働く人々の生の声こそが、最も強力なブランディング資源なのです。


本記事は、弊社代表の音声配信「stand.fm」を記事化しています。

音声は以下のURLから視聴できますので、ぜひそちらもお聞きください。

 https://stand.fm/episodes/6800c2253b693a33cb800de1

名城 政也/Masaya Nashiro

琴線に触れる株式会社 代表取締役