ビジョン・ミッション・バリューを「飾り」にしない。中小企業こそ言語化と浸透が鍵

中小企業において「ビジョン・ミッション・バリュー(以下、MVV)」を策定する企業は増えてきました。社長や役員が中心となって、自社の進む方向性や価値観を明文化することは、組織の軸を定めるうえで重要なステップです。

しかし、MVVを掲げただけでは意味がありません。現場には伝わらず、「それって結局、誰のための理念なの?」と感じられてしまうこともあるでしょう。特に中小企業にとっては、「地球環境を守る」「世界を変える」など、スケールの大きすぎる理念では、現場のスタッフが自分ごととして捉えにくいという課題もあります。

この記事では、MVVの「言語化」がなぜ重要なのか、どうすれば現場に届く理念となるのかについて解説します。

なぜビジョン・ミッション・バリューの言語化が必要なのか

MVVが機能しない最大の理由は、「言葉として曖昧」だからです。抽象的な表現では、現場のスタッフは日々の業務にどう落とし込めばいいかがわかりません。理念が形だけで終わってしまい、行動に結びつかないのです。

たとえば、「地球にやさしい企業を目指す」と掲げたとしても、目の前の業務にどう関係しているのかを理解できなければ、スタッフの行動に変化は生まれません。大切なのは、理念を現場の言葉に落とし込むこと。「自分たちは何をするのか」「なぜその行動が必要なのか」を具体的に伝える必要があります。

さらに、人は耳で聞いただけの情報を簡単に忘れてしまいます。会話で理念を伝えても記憶には残りづらく、誤って覚えられることも多々あります。そのため、理念は「言葉で明確に」「見える形で」記録することが不可欠です。

言語化の精度が理念の精度を決める

言語化というと、ざっくりした文章でよいと思われがちですが、実際には一文字一文字が意味を持ちます。

たとえば、「伝えたいことが誤解なく伝わる世の中を目指す」というビジョンの中の「が」という一文字。これが「を」に変わると、伝えたいことの主体が変わってしまい、意図がずれてしまいます。

このように、言語化は細部まで意図を込めて設計するものです。そして、その言葉の背景にある考えやこだわりを、全員が共有できるように「浸透」させていく必要があります。

MVVが現場で機能するための具体策

MVVを「現場で機能する言葉」にするには、以下の3つのステップが重要です。

1. 現場と本部で“すり合わせた”上で言語化する

経営層だけで理念を決めてしまうと、現場との乖離が生まれやすくなります。「現場には関係ない」「上が勝手に言ってるだけ」という温度差は、理念が根付かない典型です。

現場のリアルな声を聞き、すり合わせながら言語化することが、真に機能する理念につながります。

2. 目に見える形で常に「触れられる状態」にする

MVVを作成したら、それを社内の見える場所に掲示しましょう。ポスター、卓上カレンダー、名刺の裏など、ふと目に入るところに置くことで、自然と理念が日常に溶け込みます。

紙に残すことで、「この言葉で合ってるっけ?」という曖昧さを排除し、社員が理念を正確に記憶し、正しく行動に落とし込むことが可能になります。

3. 行動レベルに落とし込んだ「バリュー」の設計

ビジョンやミッションは方向性の表明にすぎません。社員がどんな行動をとればよいのかまで落とし込んだ「バリュー(行動指針)」の設計が不可欠です。

たとえば、「誤解なく伝わる世の中を目指す」というビジョンであれば、「接続詞・句読点まで意識する」「わかりにくい言葉を使わない」といった具体的な行動指針に変換することで、現場での行動が揃っていきます。

言葉を浸透させることで、ブランドになる

理念の言語化は、単に社員教育のための施策ではありません。その会社がどんな価値観で動いているかを明確にし、それを社会に発信していくことが「ブランドの核」になります。

「ブランドをつくる」というとデザインやネーミングに注目しがちですが、まずは組織内に「一貫した姿勢」があることが最優先です。浸透した言葉は行動を変え、行動の積み重ねが企業文化となり、企業文化がやがてブランドとして外部に伝わっていきます。

呼び方はなんでも構いません。ビジョンでも理念でも、行動指針でも。大切なのは「自分たちは何者か」「何を大事にしているのか」「どんな行動を望むのか」を具体的な言葉で定めることです。

理念を“飾り”にせず、現場の行動に落とし込もう

中小企業にとって、ビジョンやミッション、バリューを策定すること自体がゴールではありません。策定した言葉を、現場での行動にどう結びつけるか、そしてそれをどう浸透させていくかこそが重要です。

・現場とすり合わせて策定する
・目に見える形で繰り返し触れられるようにする
・行動指針まで具体化し、日常業務に結びつける

この3点を意識するだけでも、MVVは「機能する理念」になります。そして、その言葉が組織の文化となり、やがては会社そのもののブランドへと育っていくのです。

>VMV策定について


本記事は、弊社代表の音声配信「stand.fm」を記事化しています。

音声は以下のURLから視聴できますので、ぜひそちらもお聞きください。

 https://stand.fm/episodes/68007ecb16e437e4517ddff0

名城 政也/Masaya Nashiro

琴線に触れる株式会社 代表取締役