「なんかいいな」の感覚:ブランドと理念を自然に伝える文章の作り方

企業や商品のブランディングにおいて、理念や思いをどれだけ文章に込めるべきか。多くの人がこの問いに直面します。極端に理念を押し出しすぎると不自然に感じられ、かと言って全く触れなければブランドの個性が伝わりません。今回は、理念を自然に伝え、読み手に「なんかいいな」と思わせる文章作りのコツを解説します。
「なんかいいな」がブランディングの真髄
現代の消費行動を考えると、人々がモノやサービスを選ぶ際の決め手は意外にシンプルかもしれません。
理屈より感覚で選ぶ消費者心理
セールスライティングの世界では、メリットやベネフィットの訴求、共感を呼ぶ文章など、さまざまなテクニックが使われています。新PASONAの法則と呼ばれる「共感→悩み→解決」のパターンも頻繁に目にします。
「こんなお悩みありませんか?私もそうだったんです。それを解決するにはこれがあって…」
こうしたアプローチは確かに効果的ですが、ライティングの知識がある人や広告に慣れた消費者からすると「あー、また出てきたこのパターン」と思われがちです。
実際、多くの人が商品を選ぶとき、メリットや機能を細かく比較検討するというよりも、「なんとなくこっちの方がいいな」という感覚で決めていることが多いのではないでしょうか。
無条件に惹かれる「なんかいいな」の力
日常の買い物を振り返ってみると、必ずしも必要性や機能性だけで選んでいるわけではありません。「今必要じゃないし、買っても意味ないかも」と思いながらも、「なんかいいな」と感じたものを衝動的に購入した経験は誰にでもあるでしょう。
この「なんかいいな」という感覚こそが、現代のブランディングにおいて最も強力な武器になります。どんなに機能や価格で優れていても、この感覚を喚起できなければ、消費者の心には響きません。
理念を自然に伝える文章作り
では、文章の中にブランドの理念や思いをどう組み込めばよいのでしょうか。
押し付けず軸に沿って書く
大切なのは、理念や思いを無理に詰め込みすぎないことです。企業の軸となる理念やブランドの方向性に沿って自然に話を展開していけば、おのずと「なんかいいな」という印象を生み出すことができます。
例えば、「人に優しくする」という理念を持つ企業があるとします。しかし、「私たちは人に優しくするのが好きで、優しさを大切にしています」と直接的に伝えるだけでは、逆効果になることもあります。優しさを押し付けられると、それはそれで押しつけがましく感じるものです。
代わりに、その人の自然なストーリーに沿って、理念に関連する部分に軽く触れる程度にヒアリングしていけば、読み手は「なんかこの会社、優しいな」と自然に感じるでしょう。
多様性の中の一貫性
企業には様々な人材がいます。全員が同じキャラクターである必要はありません。むしろ、多様な個性が集まっている方が自然です。
例えば、「熱さ」を大切にするブランドであれば、全社員が「熱さが大事です!」と口を揃えて言うよりも、一見穏やかそうな人も含めて、それぞれの個性の中に「熱さ」が表れているほうが説得力があります。
写真からは大人しそうに見える人が、「昔からパソコン部で一時期オタクもやっていて…」という過去を持ちながらも、その話の中に情熱や熱意が感じられれば、「この人、一見地味に見えるけど、なんか熱いな」という印象を与えることができます。
スターバックスの例
実際のブランドで考えてみましょう。スターバックスは「どこにでもある」コーヒーショップでありながら、「なんかおしゃれだな」「なんか高級感があるな」「なんか居心地がいいな」という感覚を多くの人に与えています。
これは、彼らが理念や価値観を節々に感じさせる要素を散りばめているからです。直接的に「私たちはおしゃれで高級感のある空間を提供します」と言わなくても、店舗のデザイン、スタッフの接客、商品のパッケージなど、あらゆる接点で一貫したブランド体験を提供しているのです。
ライターに求められるバランス感覚
理念を伝える文章を書く際、ライターには繊細なバランス感覚が求められます。
ストレートすぎず、かけ離れすぎず
企業の理念や思いから完全にかけ離れた内容では、一貫性がなくなり、読み手に「なんかちがう」という引っかかりを与えてしまいます。一方で、理念をストレートに押し出しすぎると、読み手は「胃もたれ」のような不快感を覚えます。
一部の要素で理念を直接的に表現することは問題ありませんが、全体として自然に理念が伝わるバランスを取ることが大切です。この匙加減こそが、優れたライターの真価が問われるところです。
ホームページ全体での表現
企業のホームページを例に考えてみましょう。各ページが企業のブランドやUSP(Unique Selling Proposition:独自の強み)に紐づいた内容であることは重要ですが、それを表現する方法は様々です。
例えば、「顧客目線」を大切にする企業があるとします。会社紹介、サービス内容、料金表、代表挨拶など、すべてのページで「うちは顧客目線です」と繰り返し主張するのは逆効果です。読み手からすれば「わかったよ…」という反応になりかねません。
代わりに、以下のようなアプローチの方が効果的です:
- 代表挨拶では「私は昔、お客さんだった時にこういう思いをしました。それをなくしたいと思いました」と体験談を語る
- 料金表は分かりやすく設計し、「お客様からのご要望が多かったプランをご用意しました」と説明する
- サービス内容ページでは、お問い合わせから納品までの流れを明確に示す
「顧客目線」という言葉を使わなくても、ホームページ全体から「このサイト、すごく分かりやすいな」「ユーザーファーストに作られているな」という印象を与えることができれば、それこそが理念の体現です。
自然に伝わるブランディングを目指して
ブランドの理念や思いは大切にすべきものですが、それを押し付けるように伝える必要はありません。むしろ、節々に自然と現れる方が効果的です。
SNSでの発信を例にとれば、毎回「顧客目線で言うと…」と書き始めるよりも、相手を思いやる姿勢がにじみ出る様々な話題を提供する方が、結果的に「この人/この会社は本当に顧客のことを考えているんだな」という印象を与えることができます。
ブランディングの真髄は、言葉で直接訴えかけることではなく、接点のすべてを通じて「なんかいいな」と思わせることにあります。その感覚こそが、人々の心に残り、長期的な関係構築につながるのです。
理念や思いを言葉にする際は、押しつけがましくなく、かつ一貫性を持たせることを意識しましょう。そうすれば、読み手は自然と「なんかこの会社、いいな」と感じてくれるはずです。
本記事は、弊社代表の音声配信「stand.fm」を記事化しています。
音声は以下のURLから視聴できますので、ぜひそちらもお聞きください。
https://stand.fm/episodes/67f54a74ac0de769f5eb7743

名城 政也/Masaya Nashiro
琴線に触れる株式会社 代表取締役