AIでブランディングは成立するか?人の熱量と機械の限界

企業のブランディングにおいて、ウェブサイトやパンフレット、社員インタビューなどの文章は重要な役割を果たします。近年、AI技術の急速な発展により、こうした文章作成をAIに任せる選択肢も出てきました。しかし、AIが生成した文章でブランディングは本当に成立するのでしょうか。その可能性と限界について考察します。

AIによるブランディングの可能性と限界

結論から言うと、AIだけでブランディングを完全に成立させるのは現状では難しいと言えます。ただし、ある程度の役割を果たすことは可能です。

AIツールの進化

近年、AIツールは急速に進化しています。例えば、「AI社長」のようなツールでは、企業の理念や社長の考え方をAIに入力しておくことで、従業員からの質問に対して理念に基づいた回答を提供することができます。こうした仕組みは理念浸透活動の一環として活用されつつあります。

しかし、これはあくまで「返答のツール」であり、ホームページの文章や社員インタビュー、社長挨拶といったブランディング素材の作成とは性質が異なります。

AIによる文章作成の限界

企業の理念をAIに入力し、ホームページや社員インタビューの文章を生成させることは技術的には可能です。しかし、そうして生まれた文章がブランディングとして十分に機能するかと言えば、完全ではありません。

現状では、AIによる文章作成で実現できる部分は全体の約50%程度と考えられます。残りの部分については、人間による手直しが必要となるでしょう。特に「その人らしさ」という点において、AIにはまだ限界があります。

人間の判断とヒアリングの重要性

AIを活用する上でも、人間の判断とヒアリングは欠かせない要素です。

コンテンツに何を盛り込むかの判断

AIに何を入力するか、どの内容を組み込むかという判断は人間が行う必要があります。例えば、社員インタビューを作成する場合、「あなたの思っていることを全部書き出してください」という漠然とした指示では、社員は何を書けばよいか迷ってしまうでしょう。

入社の経緯、現在取り組んでいること、やりがいなど、一定のフォーマットを決めることで書きやすくなりますが、その反面、フォーマットが固定化されると個性が失われる可能性もあります。

社員インタビューについては、以下の記事も参考になります。

社員インタビューのインタビュアーは誰が適任なのか?人事?広報?社長?

本記事では、社員インタビューのインタビュアーを誰がおこなうべきか?について解説しています。自社内でインタビュアーを担当してもらうのか?外部ライターに発注するの…

理念に基づいた経験や思いの抽出

企業のブランディングにおいて重要なのは、理念に基づいた経験や思いを文章に反映させることです。これを抽出するためには、人間によるヒアリングと判断が必要不可欠です。

AIは入力された情報を処理することはできますが、ヒアリングの過程で感じ取れる「熱量」や「強調すべきポイント」を自ら判断することは困難です。

AIと人間の協働による効果的な活用法

AIをブランディングに活用する方法として、人間とAIの協働が考えられます。

ヒアリングと要素抽出は人間が担当

効果的な協働のためには、ヒアリングと重要な要素の抽出は人間が担当するべきです。「その人らしさ」が出るような要素を豊富に集め、理念との接点を見極めることが重要です。

AIによる文章の整理と洗練

集めた要素をもとに、AIに文章を生成させたり、人間が書いた文章を洗練させたりする使い方は有効です。しかし、実際にこうした方法を試してみると、やはりAIが生成した文章からは「らしさ」が消えてしまう、意図とは異なる方向性になってしまうといった課題が生じることがあります。

人間による修正と調整の必要性

企業の理念を熟知している人間であれば、ヒアリングした内容の中から、理念に沿った重要な部分を見極め、強調することができます。例えば、「この人はこの部分に対して熱く語っていたから、この部分を伝えるべきだ」といった判断です。

AIはテキストデータとして入力された内容からパターンを学習することはできますが、ヒアリング時の話者の熱量を直接感じ取ることはできません。そのため、こうした「熱量」や「思い」の部分は、人間が補完する必要があります。

AIでは捉えきれない企業の背景と意図

企業のブランディングには、表面的な情報だけでなく、その背後にある思いや背景を理解することも重要です。

企業の歴史と現在の方向性のバランス

企業の歴史や背景はブランドストーリーとして重要な要素です。しかし、AIにこうした情報を入力すると、必要以上に歴史的な部分を強調してしまうことがあります。

例えば、明治時代から続く老舗企業の場合、創業からのストーリーは確かに大切ですが、現在伝えるべきことは必ずしもその歴史ばかりではないかもしれません。AIはこうした「何を強調し、何を抑えるべきか」というバランス感覚が不足しがちです。

企業が目指す方向性の表現

企業が「どのように見られたいか」「どのように見せたいか」という意図も、ブランディングにおいて重要です。例えば、伝統を守りながらも変化を示したい企業の場合、過去の話ばかりを強調するとメッセージがぶれてしまいます。

AIに企業の背景情報を入力すると、過去の実績や歴史に関する情報を重視しがちで、未来志向のメッセージが薄れてしまう可能性があります。

AIと人間の役割分担

ブランディングにおけるAIの活用は、リソースが限られている場合の一つの選択肢として考えられます。しかし、理念を大切にし、ブランドを重視する企業にとっては、人間の介入が不可欠です。

現状では、ブランディングを完全にAIに任せることは適切ではありません。特に企業の理念や価値観を大切にしている場合、AIだけでは「らしさ」や「熱量」を十分に表現できない可能性が高いです。

より効果的なプロンプト(AIへの指示)を工夫することで、AIの出力の質を向上させる可能性はあります。例えば、「この人はこういう部分を熱く語っていたので、ここはこの内容を強めに書いてください」といった具体的な指示です。しかし、現状ではそうした工夫をしても、人間の手直しが必要ないほど完璧な文章が生成されることは稀です。

ブランディングにおけるAIの理想的な活用法は、人間がヒアリングし、要素を抽出し、方向性を決定した上で、AIがその文章を整理したり、表現を洗練させたりする補助的な役割です。そして最終的には、人間が内容を確認し、必要に応じて修正を加えるというプロセスが望ましいでしょう。

AIはあくまでツールであり、ブランディングの本質は人間の思いや理念にあります。AIを活用しつつも、その限界を理解し、人間ならではの感性や判断を大切にすることが、効果的なブランディングへの近道と言えるでしょう。

ぜひ皆さんも、ChatGPTやClaudeなどのAIツールを使って、「自分らしさ」や「会社らしさ」がどの程度表現できるか試してみてください。その経験を通じて、AIと人間の適切な役割分担について考えるきっかけになるかもしれません。


本記事は、弊社代表の音声配信「stand.fm」を記事化しています。

音声は以下のURLから視聴できますので、ぜひそちらもお聞きください。

 https://stand.fm/episodes/67f546b8a5a4f6d7861a5e56

名城 政也/Masaya Nashiro

琴線に触れる株式会社 代表取締役