ブランドを反映したキャッチコピーの作り方|表面的な「かっこよさ」を超えて

キャッチコピーは企業のブランドイメージを伝える重要な要素です。
しかし多くの場合、「かっこいい」「インパクトがある」といった表面的な要素だけに注目してしまい、本来伝えるべき企業のブランド価値との乖離が生じてしまいます。
効果的なキャッチコピーはどのように考え、作成すればよいのでしょうか。
キャッチコピー作成の落とし穴
企業のウェブサイトやパンフレットなどで使用するキャッチコピーを考える際、多くの人が陥りがちな誤りがあります。それは表面的な「かっこよさ」や「インパクト」だけを追求してしまうことです。
先入観による固定イメージ
キャッチコピーというと、どうしても「かっこいいもの」「言い切るもの」「インパクトのあるもの」というイメージが先行しがちです。もちろん、そういった要素が重要なケースもありますが、それだけに囚われると本質を見失ってしまいます。
特に問題なのは、そのキャッチコピーが本当に会社のブランドを表現できているかという視点が欠けてしまうことです。ブランドとの整合性がなければ、「この会社が言っていることと違う」「このキャッチコピーに惹かれたのに全然違った」という失望を生み出し、最悪の場合は虚偽広告と見なされてしまうリスクもあります。
ブランドの根本からの発想が必要
キャッチコピーは単に「かっこいい言葉」を考えるのではなく、企業のUSP(Unique Selling Proposition:独自の強み)やブランド、理念から導き出されるべきものです。「なんとなくこうだろう」という曖昧な思い込みではなく、企業の核心的価値に基づいて考える必要があります。
「かっこいい」の多様性を理解
「かっこいいキャッチコピーを作ろう」という時点で、すでに大きな問題が潜んでいます。なぜなら「かっこいい」という概念自体が、企業やブランドによって全く異なるからです。
企業ごとに異なる「かっこいい」の定義
「かっこいい」というだけでも、その意味合いは多岐にわたります:
- 熱血系の「熱い」かっこよさ
- クールで洗練された「冷静な」かっこよさ
- 職人気質の「淡々と積み重ねる」かっこよさ
例えば建設業や職人の世界では、「淡々とこなす」「一つのことにこだわる」姿勢がかっこいいとされるかもしれません。一方で、IT業界ではイノベーティブさや先進性が「かっこいい」とされるでしょう。
ブランドによって異なる「かっこよさ」
シャネル、スターバックス、ディズニーランド、トヨタ——これらの企業が考える「かっこいい」は、それぞれ全く異なります。だからこそ、「かっこいいとは何か」という議論から始めなければ、本当に企業らしいキャッチコピーは生まれないのです。
多くの企業は「かっこいいフレーズ」や「言葉の響きがいい表現」を選びがちですが、それだけでは企業の真のブランド価値は伝わりません。
抽象から具体へ:ブランドに合ったキャッチコピー
効果的なキャッチコピーを作るためには、抽象的な概念を企業固有の具体的な表現に落とし込む作業が必要です。
具体化のプロセス
例えば「職人気質」を大事にする企業であれば
- まず「かっこいい」の定義を明確にする:「職人として積み重ねること、一つのことにこだわることがかっこいい」
- その「かっこいい」を伝えるポイントを絞る:「こだわりがかっこいい」ということを伝えたい
- 用途に合わせて具体的な表現に落とし込む
例えば企業ホームページなら「どこよりもこだわる」というキャッチコピーが考えられます。採用向けなら「誰よりもこだわりたい人へ」といった表現になるでしょう。
これらは一見するとどちらも「かっこいい響き」を持っていますが、単に表面的なかっこよさを追求したのではなく、企業のブランド価値を具体化し、それを魅力的に表現したものです。
言葉の選択がブランドを決める
キャッチコピーにおいては、選ぶ単語や語尾までもが企業のブランドイメージを大きく左右します。
「やっちゃえ、日産」のケーススタディ
日産自動車の「やっちゃえ、日産」というキャッチコピーは、日産のブランドイメージに絶妙にマッチしています。「やっちゃえ」という少し「やんちゃ」なニュアンスの言葉選びは、日産のブランド姿勢を反映しています。
このCMで起用された木村拓哉さんや矢沢永吉さんのイメージも、この「やっちゃえ」という言葉と整合性があります。「新しいことにチャレンジする会社」という日産のブランドを、この一言で効果的に表現しているのです。
言い回しの違いで変わるブランドイメージ
同じ「やる」という動詞でも、言い回しによってイメージは大きく変わります:
- 「やっちゃえ、日産」:クレバーでやんちゃなイメージ
- 「やろうぜ、日産」:もっと活発で直接的なイメージ
- 「やりましょう、日産」:堅い印象、選挙ポスターのような公式感
言葉の選択一つで、企業のブランドイメージが大きく変わるのです。
語尾・ニュアンスがターゲット層を決める
キャッチコピーの語尾やニュアンスの違いは、そのブランドに惹かれる人の層にも大きな影響を与えます。
言葉遣いとターゲット層の関係
例えば「こだわり」を重視する企業の採用コピーでも
- 「誰よりもこだわろうぜ」:兄貴肌のリーダータイプが集まりやすい
- 「誰よりもこだわっちゃう」:オタク気質、マニアックな専門家タイプが集まりやすい
このように、言葉のニュアンス一つで、集まる人材の傾向も変わってきます。どういった人材を求めているかによって、言葉選びを変えることも重要な戦略となります。
ブランドに根ざしたキャッチコピー作り
キャッチコピーは企業のブランド価値を伝える重要なツールです。表面的な「かっこよさ」や「インパクト」だけを追求するのではなく、以下のポイントを意識することが大切です。
- 企業の本質的な価値やブランドから発想する
- 抽象的な「かっこいい」を企業固有の具体的表現に落とし込む
- 言葉の選択、ニュアンス、語尾にまでこだわる
- 一貫性を持たせ、ウェブサイト、パンフレット、採用情報など全てに反映させる
キャッチコピー一つでブランドイメージが大きく変わることを認識し、企業の社風や価値観に合った言葉選びを心がけましょう。それこそが、真に効果的なキャッチコピーを生み出す鍵となるのです。
本記事は、弊社代表の音声配信「stand.fm」を記事化しています。
音声は以下のURLから視聴できますので、ぜひそちらもお聞きください。
https://stand.fm/episodes/67ec066ce3010a7cc67e8710

名城 政也/Masaya Nashiro
琴線に触れる株式会社 代表取締役