ブランドの本質:表面的なテクニックを超えた「らしさ」の表現

言葉の選び方や語尾の使い方でブランドイメージを表現する方法について、これまで様々な観点から見てきました。しかし、そうしたテクニックの背後にある、より本質的な要素について考えてみましょう。

ブランドの「らしさ」とは何か、そしてそれをどう表現すべきかを掘り下げていきます。

テクニックの前に必要なブランドの軸

これまで言葉のチョイスや語尾の使い方によってブランドイメージを形成できるという話をしてきました。しかし、実はこれは「ブランドの軸があってこそ」の話なのです。

テクニックだけでは空虚になる

「頑張りましょう」「頑張ろうぜ」「頑張りませんか」など、同じ意味でも言い方によって印象が大きく変わることは事実です。しかし、こうした表現の違いを意識することは、実は「後の話」なのです。

本当に大切なのは、その前段階にある「軸」です。つまり、理念の浸透、ブランドの方向性、ビジョン・ミッション・バリューがどのようなものかという部分こそが最も重要なのです。

正直に言えば、理念がしっかりと浸透し、組織の全員が同じ方向を向いていれば、語尾などのテクニックはそれほど気にしなくても良いのです。

中身なき表現テクニックの危険性

「うちはかっこいいブランドを目指したい」と言って、「〜だぜ」という語尾を使ったり、熱い感じを出すためにびっくりマークを多用したりするのは、あくまでテクニックの一つとして有効かもしれません。

しかし、そうしたテクニックに頼りすぎると、中身が空っぽの表現になってしまう危険性があります。軸がしっかりしていれば、おのずとその「らしさ」は内容に表れるものなのです。

本質を引き出すヒアリングの重要性

ブランドの本質を表現するためには、表面的なテクニックよりも、組織の内側にある本質的な要素を引き出すことが重要です。

深掘りして初めて見えるもの

例えば「熱い」という言葉一つとっても、「熱血」「常に熱い」「仕事に対して熱い」など、さまざまな「熱さ」があります。その組織が何に対して熱い思いを持っているのかという軸を定めることが、まず必要なのです。

そのためには、ヒアリングが不可欠です。表現テクニックだけなら、質問シートに答えてもらって語尾や言葉のチョイスを変えるだけでも済むかもしれません。しかし、ヒアリングするのは、その人や組織の本質、本当の「熱さ」を聞き出すためなのです。

本質があれば表現は二の次

極論を言えば、その人や組織の本質的な部分をしっかりと聞き取れていれば、「です・ます」調で終わろうが、「である」調で終わろうが、組織らしさや組織の「人格」は自然と表れるものです。

自分たちの「らしさ」を表現しようとするとき、「うちは熱血だからびっくりマークで勢いよく」「うちはユニークな会社だから話し言葉のままで」といった表面的なアプローチに走りがちです。しかし、それは本末転倒なのです。

プロフェッショナルの視点の価値

本質的なブランドを表現するためには、専門的な視点が大きな助けとなります。

ライターの深掘り技術

「うちの会社はこういうイメージだから、こんな感じで書いて」と社内で指示すると、往々にして表面的なテクニックに頼った表現になりがちです。

一方、取材に慣れたプロのライターは、深掘りするテクニックを持っています。「ユニークな会社」と言われたときに、「仕事でのユニークさとは具体的にどんな工夫ですか?」「どういう社風のどういう部分がユニークだと思いますか?」といった質問を通じて、本質に迫ることができるのです。

本質を見抜く目

プロのライターの価値は、話の中から「この会社の人格と合う話」を引き出せる点にあります。言葉のチョイスというと表現テクニックのように聞こえますが、実は「その人の話の中から何を取り上げるか」という選択こそが、真の意味での「言葉のチョイス」なのです。

個性を失わないための本質理解

「です・ます調」にして語尾を統一したら、個性がなくなってしまうのではないか——そう心配する声もあるでしょう。

個性は表現方法ではなく内容にある

しっかりとヒアリングして深掘りし、その人や組織の本質まで聞き出せていれば、「です・ます調」であっても十分に個性は表現できます。表現形式よりも内容こそが個性を表すのです。

これまで語尾の使い方で印象が変わるという話もしてきましたが、その前にまず軸がしっかりと定まっていないと、「語尾だけ変えた」空っぽな内容になってしまいます。

ブランドありきのテクニック活用

今一度整理すると、これまでお伝えしてきた内容は「こういうブランドがあるから、こういう語尾の使い方をしよう」という話でした。一方、今回お伝えしたいのは「ブランドの軸を飛ばしてテクニックだけに頼ると失敗する」ということです。

インナーブランディングが前提

表現テクニックを活用する前に、まずはインナーブランディングや理念浸透、ビジョン・ミッション・バリューの策定をしっかりと行うことが大切です。それがあってこそ、表現テクニックも生きてくるのです。

テクニックと本質の整合性

ただし、明確な理念に基づいた表現スタイルの選択は有効です。例えば「敬語を使わない」という行動指針が、「仲良くするため」や「ジェンダーバイアスを排除するため」といった明確な理念に基づいているなら、社員インタビューや会社紹介でもあえてラフな言葉遣いを採用するのは理にかなっています。

これは「ブランドの軸」に沿った選択だからこそ有効なのです。一方、単に「うちの雰囲気はラフだから」という理由だけでラフな表現にすると、理念がないまま表面的なテクニックに頼ることになり、結果としてブレたメッセージになってしまいます。

本質あってこその表現

言葉遣いや表現スタイルは確かにブランドイメージを形成する上で重要な要素です。しかし、それ以上に大切なのは、その奥にある組織の本質、理念、価値観です。

表現テクニックはあくまでも「ブランドありき」であることを忘れないでください。まずは組織の内側から、本質的な「らしさ」を掘り起こし、それを土台にした上で適切な表現方法を選択することが、真のブランディングへの道なのです。


本記事は、弊社代表の音声配信「stand.fm」を記事化しています。

音声は以下のURLから視聴できますので、ぜひそちらもお聞きください。

 https://stand.fm/episodes/67ee2da0d8984421d51d4a91

名城 政也/Masaya Nashiro

琴線に触れる株式会社 代表取締役